これまでに培ったものを表現しながら、新潟にフランス料理の美味しさを広めたい。
フランスに住んでみたい。そんな気持ちで行動したのが始まり。
東区の住宅街の中にある、カジュアルな雰囲気の店舗。しかしメニューを見ると、フランスならではの伝統的な技法を使った、本格フランス料理が並ぶ。しかも、それがランチで2,000円くらい、ディナーでは5,000円くらいで楽しめることもあり、オープンからたちまち人気店に。平日でも満席になるというから、予約は必須だ。
このお店をオープンした安孫子英和さんは、「若い頃は自分が料理人になるなんて思っていませんでした」と話す。「普通に会社員をしていたのですが、特にこれといった目標もなくて。ただ、サッカーが好きで、いつかフランスに住みたいと思っていました」。そして24歳の時に一念発起し、語学留学でフランス・リヨンへ。ある日ルームメイトの台湾人に「フランスで一緒に日本料理店をやらないか」と誘われる。これが料理人へのきっかけとなった。
自分のペースでコツコツ続け、チャンスをひたすら待つ。
帰国してからは、まずは料理の基礎を覚えようと、新潟で調理師専門学校へ入学。「学校では和食、洋食、中華、すべての料理を学ぶのですが、西洋料理が面白くなっちゃって」。初めて料理を作るのが楽しいと思えた安孫子さん。「台湾人の友人には悪いけれど、これで行こうと思いましたね」と、卒業後は新潟市内の老舗フランス料理店に就職した。
30歳を迎えた頃、安孫子さんはフランスの超有名レストランが六本木に開店する際のスタッフとして入店を決める。「とにかく厳しかったですね…。周りのスタッフもフランス帰りだったり、東京の名店から移ってきた人だったり。競争意識がすごくて、入った次の日にはもう『行きたくない…』と思いましたね」と笑う。あまりの厳しさに周囲がバタバタと辞めていく中、安孫子さんは耐え抜いた。その理由を聞くと「もう30歳を超えていたので、後戻りはできませんでした。それに自分は器用なタイプではないので、自分のペースで続けるしかない、と自覚していたからでしょうか」と話す。転機が訪れたのは3年目の時。「まかない」が評価されたことをきっかけに、料理長から直接、味見を求められるように。その後、六本木店から銀座店へ移り、最終的には副料理長を務めた。
「これまで学んできたことを表現したい」と独立を決意。
子どもが生まれ、自分の店を持つことを考えるようになった安孫子さん。開業資金を貯めるため、東京で人気の結婚式場に転職。新潟に戻ってきてからは「3年後にお店を開く」と具体的に決め、結婚式場で働きながら開業準備を進めた。まず初めに、新潟県社交飲食業組合に相談し、事業計画書の作り方や資金調達の仕方を教わった。次に新潟市産業振興財団(新潟IPC財団)を訪れ、実際の数字を見ながら具体的に計画。休みの日には不動産業者をまわった。開業資金は自己資金に加え、日本政策金融公庫と銀行から調達。「新潟県信用保証協会さんは銀行の融資の審査でお世話になりました。返済計画を細かく立てるようにアドバイスをいただきましたね。コロナ禍で思うように営業できない日が続きましたけど、今のところ順調に返済できています!」
お店のコンセプトは「東京時代に学んだ、本格的で伝統的なフランス料理」。もちろん新潟でもフランス料理は食べられるが、「もっといろいろな調理法があり、もっと幅広いことを紹介したいんです」と安孫子さん。その一つが、ラングドック地方の郷土料理「カスレ」だ。カスレとは、白いんげん豆と数種類の肉を長時間煮込み、最後にオーブンでパリッと焼き上げたもので、安孫子さんの店では鴨肉のコンフィ、豚肉のブレゼ、サルシッチャの3種を使う。「とにかく美味しいので食べてもらいたいんです。フランス人も大好きな料理です」。
新潟のお客様に受け入れてもらうため、試行錯誤を重ねて。
念願の自分のお店を持ち、大変なことを聞くと「料理以外の部分ですね。広報に力を入れるようにとアドバイスをいただいたので、Googleやぐるなび、インスタグラムもまめに更新しています」と話す。さらに提供する料理についても、「やはり未知の料理は手が出にくいものです。なので、わかりやすさと目新しさのバランスをいつも考えますね」と試行錯誤を重ねていると言う。
今後の目標や希望を聞くと「もっと料理と真摯に向き合いたいですね」と話す。「もっと料理のクオリティを上げていきたいと思っています。美味しいお店には、その背景に一貫した想いや、ストーリーがあるんですよね。その柱となるものをもっと磨いていきたいというか…。それに新潟に戻って、いろいろ分かったこともあります。新たな食材の組み合わせなど、どんどん試していきたいですね」。
新潟県信用保証協会のサポート〈 ブラッスリー・ロランジュの場合 〉
新潟県信用保証協会のサポート
●営業形態についてのアドバイス
●借換による資金繰り支援
●プレスリリース作成のアドバイス
担当者からのコメント
創業されてから定期的にフォローアップを継続させていただいているお客様です。安孫子さんは、今まで培ってきた技術を活かし、新潟のお客様に対しどのように提供すれば気に入って頂けるか、常に考え実践されている、そのような印象を受けました。フランス料理を身近なものに、そのコンセプトを今後も実現していっていただきたいですね。
創業を考えている人にアドバイス
技術や経験は裏切らない。自信を持てるまでしっかり磨いて。
レストランの料理は「ただ美味しいものを出せばいい」のではないと思います。「素材に自分の経験と技術を乗せて表現するもの」と思っています。お客様に自信を持って出せるようになるには、ある程度の厳しさやしんどい思いがあってのこと。身につけた技術、経験は自分の宝。決して裏切りませんから、まずはそこをしっかり磨いてほしいですね。
ブラッスリー・ロランジュ
設立:2018年7月
所在地:新潟市東区牡丹山5-14-11
業務内容:飲食業
ブラッスリーとは、レストランほど格式が高くなく、お酒とともに食事を楽しむお店のこと。同店は新潟産はもちろん、フランス産の食材も使いながら、フランスならではの技法で料理を提供している。また、カスレといった地方伝統料理も楽しめる。「ミシュランガイド新潟2020」では、ミシュランプレートに選ばれる。全36席。
店名・屋号の由来
ロランジュは、直訳するとオレンジ。情熱、パッションの色ということで店名にしました。若い頃、厳しかった修行時代の気持ちを忘れないように。店内もオレンジ色のインテリアにしています。