祖父、両親から受け継いだ味に、地域の皆さんの思いを背負って。
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親しみやすさを第一に。店主が腕を組まないラーメン店。
上越市のシンボル、高田城の北に位置する北城エリア。城下町ということもあり、住宅街ながら飲食店が比較的多めのこの地域に店を構える「らーめんのこじま」。白い壁の外観に、親しみやすい文字を使った店舗サイン。明るくて清潔感のある店内は女性一人でも立ち寄りやすい雰囲気。お子様用座布団やチェアベルトもあり、子供連れも歓迎してくれることがわかる。
「移転前から来てくださっているお客様が、入りやすいお店にしたいと思って。小さなお子様を連れたご家族も多かったですし」と話すのは、店主の小島 晶子さん。女性店主のラーメン店は珍しいと言うと「そうなんです。目指しているのはホッとできて、笑顔になれるお店。私はラーメン店の店主ですけど、腕も組まないし、店舗に赤や金の文字を使ったりもしないんです」と笑う。
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地域に愛され続けた店を、突然閉店することに。
小島さんが経営するラーメン店は、もともと両親が始めたもの。「我が家は祖父が精肉店を営んでいたんです。父は祖父がチャーシューを作るのを見て、『この脂でラーメンを作ったら絶対に美味しいはず』と考えていて、私が高校生の時に念願だったラーメン店を開いたんです」。チャーシューは小島さんの祖父が中国人から習い、日本人の口に合うよう長年研究を重ねたもの。20時間以上かけて煮出したとんこつスープの上にその絶品チャーシューが広がるラーメンとなれば、人気が出ないわけがない。小島さんは学卒後、東京の料亭に就職するが、店を手伝うため帰郷。以来、地域に愛されるラーメンの味を、父と母とともに守ってきた。
転機が訪れたのは3年前。長年借りていた店舗が、更新できなくなったのだ。代わりの店舗も探したが簡単に見つかるわけもなく、先が決まらぬまま退去することに。閉店の知らせはまたたく間に広がり、7月の閉店時には午前中から長蛇の列ができた。
歴史、信頼、愛情…みんなの思いを背負う覚悟が決まった。
突然の閉店は地域住民も困惑させた。「どうして閉めるの?」「やめないでほしい」との声が上がる。ほどなくして、常連客の一人が「近隣に近々閉店する食堂があるんだけど」と不動産物件の話を持ってくる。次に動いたのが精肉店時代から取引のある金融機関だ。「お金のことは心配しなくていいから、続けてくれるよね?」と資金計画を立てる。店舗は新築することになったが、「いろいろサポートするから、任せてよ!」と子どもの頃から知っている大工が工事を担当。以前の店舗から200メートルほど西に移転オープンしたのは、閉店からわずか5カ月後のことだった。
「あれよあれよという間に話が進んで…。まるでみんなに担がれて、清水の舞台から突き落とされたみたい」と小島さんは笑う。「でも、皆さんの『こじまのチャーシューとラーメンをなくしたくない』という気持ちは本当に伝わってきて。祖父と両親が築いてきた味と信用。地域の皆さんの期待とサポート。たくさんの思いに恩返ししたいと思うようになりました」。晶子さんの両親からも「私たちもあと10年は頑張るからね」との言葉をもらったそう。一度は閉店となったが、みんなの思いを背負った晶子さんが再オープンさせたため、「事業承継でありながら創業」という形になった。
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経営者となってからは、いろいろなところに意識が向くように。
「実家の手伝い」から「店主・経営者」となった晶子さん。店のメニューや味はそのまま、普段のオペレーションも従来どおり両親と3人で行っている。しかし券売機の導入やSNSでの発信など、新しく始めたこともたくさん。「悩みや疑問があっても、親もどうしていいのかわからなくて。そんなときに信用保証協会さんの専門家派遣はとてもありがたかったです」と晶子さんは話す。派遣された専門家からは店舗のレイアウトや券売機の表示など、一つひとつアドバイスを受けた。「特に、原価計算の方法をみっちり学びました。価格を変えてはいけないと思っていたけれど、店を守っていくためには必要なことだと納得できました」
また、晶子さんのマインドにも変化が起きていく。「普段の生活でも『このお店が人気を集める理由はなんだろう』『これいいな、真似してみよう』とか…。いろいろなことが気になるようになりました」と話す。地域の住民に愛された味を守るだけでなく、より良い店づくりに奔走する晶子さん。「今後の課題は、やはり将来の引き継ぎのこと。今は両親と一緒にやっていますが、いずれできなくなる時が来る。チャーシューづくりも含め、今からできることをやっておきたいと思っています」
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新潟県信用保証協会のサポート〈 らーめんのこじまの場合 〉
新潟県信用保証協会のサポート
●原価計算や料金設定、店舗のアドバイス(外部専門家派遣)
●SNS発信など広報のアドバイス(外部専門家派遣)
担当者からのコメント
小島さんの事業に対する誠実さ、お客様を想ったサービスはまさに「腕を組まないラーメン店主」です。その姿勢がお客様に伝わり、今もご両親の時から変わらず愛されているのだと思います。とろけるように柔らかく、噛めば肉の旨味を感じられる、らーめんこじまのチャーシューをぜひ上越で召し上がってみてください。
創業を考えている人にアドバイス
ネガティブ思考もOK!心配事は一つずつ潰していこう!
店が再オープンする前の私に伝えたいことは「ネガティブ思考は悪いことじゃない」ということ。失敗を恐れる気持ちが大きかったんですが、心配事は一つひとつ潰して、今できる最善をつきつめることが大切だし、そうすることで、結果的にベストな着地点に落ち着くはずなんです。小心者には小心者のやり方がありますよ(笑)
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らーめんのこじま
設立:2021年12月
所在地:上越市北城町4-17-8
業務内容:飲食業
「ラーメンのこじま」として30年間親しまれていたラーメン店が、近隣に移転して再オープン。秘伝のタレで焼き上げたチャーシューが売りで、晶子さんの祖父が創業した精肉店時代から作り続けてきたもの。人気メニューは「しょうゆ玉ねぎチャーシュー麺」。
店名・屋号の由来
両親からは「店名も、店構えも、変えていい。晶子の好きなようにしなさい」と言われたのですが、カタカナをひらがなに変えただけにしました。祖父が残したチャーシューの味、両親が作り上げたラーメンの味。これらを背負って、お客様と一緒に時間を重ねていきたいですね。